マオリはおかみに無理矢理縁側に連れ出されて座らされ、
出された茶菓子をほうばった。

「おいしおすか?」
 
無言で口を動かすマオリを見ておかみは微笑んだ。
マオリはおかみを見てこくりとうなずいた。

マオリはきれいにかたちの整えられた菓子など食べたことがなかった。
甘さがじんわりと口の中に広がっていく。

ふいに、弟たちの顔が浮かぶ。

病があっというまに体を食い荒らして、
言葉を交わすこともないまま死んだ栄治。

逃げるマオリの背でだんだんと息が弱くなっていった源太。

「おかみ、薬屋はんがおこしやす。」
 
番頭がおかみを呼びに来た。
マオリはおかみに気づかれないようにそっと袖口で目尻をぬぐった。

「ほな、奥に通しておくれやす。」
 
おかみの声にはいつもより少し固かった。
戻っていく番頭が見えなくなるのを確認しておかみは声をひそめた。

「マオリ、お仕事や・・・。」
 
おかみとすっと立ち上がって、
マオリについてくるように目で合図した。

マオリも立ち上がり、屋敷の廊下をおかみの後ろについて歩いた。
 
昼間の有松はまだ客も少なく、
奥の座敷に通されるまで誰にも会うことがなかった。