「行くところは・・・ないのだな?」
 
土方は確かめるように、わかりきったことを聞いた。

行く宛があれば、
十七の娘が刀を振りまわして人を斬る必要などないだろう。

「仕事は厳しいものだが、給金もやる。
 いつかほとぼりが冷めたら、故郷に帰って
 墓を建ててやることくらいはできるだろう。」
 
土方は再び、淡々とした事務的な口調に戻った。
しかし、先ほどと比べればいくらかわずかに優しげに聞こえる。

「もう、村へは戻らん。」

マオリはもう一度、固く刀を握った。

「ここに、ここに置いてけろ。」
 
そう言うとマオリは両手をついて頭を下げた。
黒い髪がぱたぱたと畳に落ちる音がした。
額を畳につけた。

「ええんや。わてにはお子たちおらんさかい、
 娘にならはったつもりでここにいてくれてよろしおす。」
 
おかみは頭をさげるマオリの小さな背中に手を当てて、
マオリの境遇に泣いた。

マオリにもおかみが目頭を熱くしているのがわかり、
こらえていたものが溢れた。
 
居場所が欲しい。
 
家族を奪われ、村を追われ、命さえも奪われそうになったマオリが、
そう渇望するのは自然なことだった。