「土方はん・・・こないな娘はんにそないな仕事・・・。」
 
おかみは恐る恐る土方にたずねた。
助けを求めるようにマオリはおかみを見た。

「腕は確かだ。」
 
土方は精悍な面持ちを崩さず答えた。
その声色は物静かで鋭かった。

「かて、ご両親はどへんしはったの・・・。」

おかみは刀を握ったマオリの手の上から、
ふくふくとした白い手を重ねた。
じわっと温かい体温が伝う。

「親は・・・おっかあは弟を生んですぐ死んだ。おとうは・・・。」
 
マオリはぎゅっと拳を握り締めた。

「おとうは・・・下の弟が死病になったのを隠して・・・
 村の人たちに家ごと焼かれて死んだ。
 一緒におばばも焼けて死んだ。
 上の弟は一緒に逃げたけど、やっぱり死んだ。」
 
淡々と話すマオリに不思議と涙は出なかった。
もう遠い昔のことのようにさえ感じる。

それがたった数日前の出来事であることを思い出すには、
マオリの身にはあまりに多くの死が振りかかりすぎたのかもしれない。
 
マオリは田舎なまりを隠すように意識しながら、
淡々と言葉をつむいでいった。

「死病・・・コロリか。」
 
土方も初めて聞くマオリの素性に、複雑そうに顔をしかめた。

「江戸でも流行っとると聞きますな。」
 
主人もマオリを憐れそうに見やって言った。

「家ごと焼かれたって・・・そない・・・。」
 
おかみは優しげな顔を崩して涙を浮かべてマオリに寄り添った。
おかみの温かい体温がマオリを通して伝わってくる。