「この料亭、有松で下働きをしなさい。」
 
土方の言葉にマオリは止めていた息をふうっと吐いた。

幼い弟を二人抱えて野良仕事と家事をしてきたマオリである。
下働きと聞いて少し安堵し、少し拍子抜けした。

「そして、おれから指示があった時・・・」
 
土方は険しい目つきに変わった。
おかみと主人も緊張した面持ちで土方の次の言葉を待った。
 
土方の目が蛇のそれになる。
マオリは引き込まれるように土方の両目に絡めとられた。

「その人物を斬れ。」
 
おれはばさりと羽を動かした。
マオリは目を丸くして土方を見ていた。

「おれたち新撰組は京の治安を守るため、不逞浪士を取り締まっている。
 徳川の将軍に仇なす者たちと戦っている。
 年々、新撰組は規模を大きくしているが、おまえには、
 俺たちが容易に動けぬ時、変わって不逞の輩を斬り捨ててもらう。」
 
おかみと主人が真剣な表情で、
あっけにとられているマオリを見つめている。
 
たった一つのマオリの持ち物である白い刀を
マオリはぎゅっと握り締めた。