「まあ、おいでやす。土方はん。」
 
ほどよく肉のついた血色の良い四十代の女が顔を出した。
すっとその場に膝をつくと土方に向かって深々と頭を下げた。

藤色の上品な着物を着て、紺色の帯を締めている。
きっちりと結い上げられた髪に朱色の櫛を挿し、
嫌味のないほどに施した化粧の顔で土方を迎え入れた。

「いつ江戸から戻らはったんどすか。」
 
おかみと呼ばれたその女は奇妙な言葉で話す。
おそらくこれがこの土地の言葉なのだろう。
道中の人間どもも同じような物言いであったことを思い出した。

「たった今だ。」
 
土方は濡れ縁に腰掛けて旅用のわらじを解いた。

「かわいい娘さん連れてどないんどすか。」
 
おかみは明るい声でマオリを見ながら笑いかけた。

聞いたことのない言葉を話し、
見たこともない美しい着物を着た女にマオリはすっかり驚いており、
おかみが視線をやると慌てて一歩退いてうつむいた。

「ああ、そのことでおかみに相談がある。」
 
土方は腰の大小を抜いておかみに預けた。

「まあ、なんでございまひょ。」
 
土方の申し出を喜ぶようにおかみは言い、
わらじを脱いで上がった土方が立ち上がるのに合わせて
おかみも立ち上がった。

「マオリ、来い。」
 
土方は振り返ってマオリについて来るように言った。
マオリは足をもじもじとさせた。