男は京に着いてから報告するための書状をしたためていた。
今回江戸へ向かったのは、
新たな隊士を募集するためであった。

しかし、思ったほどの成果はあげられず、
報告書の筆も遅々として進まない。
 
筆を置き、立ち上がると窓の障子を開けた。

月が美しく雲間から照らしている。
往来はしんと静まり返り音ひとつしない。

男はそのまま二階の桟に腰掛けるように体を預け、
月を見上げた。

俳句のひとつでも浮かびそうだ。

しばし報告書のことは忘れることとし、
静かな夜の空気を吸い込んだ。

昼間、腕比べで名乗りをあげた少女のことが思い出された。
あれほどの腕の者であれば、即座に入隊を薦めただろう。

身なりは相当に苦労しているように見えたが、
怖いもの知らずの荒くれ者たちの中ならば、
それくらいがちょうどいい。
 
男はため息をつく。
自分の所属する組織のことを思う。

組織は次第に大きくなり、
男自身も身動きがとりづらくなっていた。

思うままに刀を振るっていた頃とは事情が違うのだ。
そう思うと余計に男の肩にのしかかる様々な事情にため息が出た。
 
意のままに動け、腕の立つ者が欲しい・・・。

しかし、なかなか見つからないものだな。
 
男は再び大きくため息をつき仕事に戻ろうと桟から腰を浮かせた時、
遠くから足音がしてくるのに気がついた。
 
夜更けに何事かと、
月明かりが届かない往来の遠くを見つめた。