フクロウの声

人間の作った建物の中では、
おれの目も耳も森でのようにはきかない。

おれは注意深く、耳をとがらせた。

マオリ、マオリ起きろ。
 
おれがマオリの耳元で呼ぶと、
階段を上ってくる複数の足音が近づいてきた。
床の軋む音が響く。

マオリ、早く起きろ!
 
おれは寝ているマオリの体を内側から無理矢理起こして、
枕元の刀を取った。
 
おれが刀の柄を握ったと同時に、
襖が勢いよく音を立てて両側に開け放たれた。
 
野次馬の中で見た覚えのある顔がいくつか。
そこにいた男は全部で五人だ。
 
マオリは意識がはっきりしてくると共に
自分が狙われていることへの恐怖に震えてた。

マオリ、しっかりしろ。やつらを斬るぞ。
 
おれはマオリを叱りつけた。

「金を出せ。そうすれば命ばかりは助けよう。」
 
マオリはまだ、かたかたと震えている。
 
男が刀を抜いた。
障子から漏れる月明かりが刀に反射してぬらぬらと光った。
 
その光がマオリの目に入る。
 
戦わなければ、殺される。
それがやっとマオリにもわかってきたようだった。
 
階下から、事の次第を見守る宿屋の主人の息遣いが聞こえる。
こいつらを手引きしたのは宿の主人か。
そうなると、全員を斬る以外にここから脱する手立てはない。