フクロウの声

おれは視線に気づいて振り向いた。

野次馬たちの視線とは異質なものを背後に感じたからだ。
 
その男はマオリが振り向いたのでもないのに関わらず、
すっと物陰に身を隠した。

ちらりと見えた男の風貌は、深い藍色の着物に身を包み、
大小を腰に差した様子から武士であるらしかった。
 
身を隠しても、マオリを定めるように観察している視線は、
まだおれに絡み付いていた。

蛇のようなねめつける視線。
 
面倒なことにならなければいいが。

おれはそう思ったが、蛇のような男はこの先、
マオリの運命に大きく係わることになる。


腕試しで得た金で、マオリは宿に泊まることができた。

腹いっぱいに食べることは久々どころか、
貧しい農村の生まれであるマオリにとって、
今夜ほどに腹を満たしたのは
生まれて初めての体験だったのではないかと思う。
 
それほどマオリは初めて食べる味の濃い、
見たことのない色とりどりの料理を嬉しそうに頬張った。

一つ一つ箸でつまみあげては、
きらきらと目を輝かせて、穴が空くほど眺めてから口に運んだ。
それは、十七の無垢な娘らしい表情であった。
 
得た金で着物も買い、
風呂に入ってこざっぱりしたマオリは、
ふかふかと太陽のにおいをさせた布団に横になった。

すぐにでも寝てしまいそうな様子は、
マオリの体が重くなっていく速さでわかった。

マオリ、刀はすぐに手の届くところに置いておけ。
 
おれは胸騒ぎがした。