宿場は村と違い、
さまざまな人間が出入りするにぎやかしいところだった。
 
宿屋の娘が明るい声で呼び込みをしている。

マオリと同い年くらいの若い娘だ。
きちんと洗われた着物にきっちりと髪を結い上げている。

マオリは横目にその娘をとらえた。

髪はほつれ、
汚れて後ろで一つに束ねてはいるが、
マオリの汚さはマオリ自身も自覚するところであった。
 
娘がマオリの異様な風体を
チラリととらえて目を逸らすと同時に、
マオリも目をそむけてうつむき、小走りに娘の前を過ぎ去った。
わずかに耳の温度があがる。


「さあさあ、腕試しだよ!」
 
男のはつらつとした声にマオリは顔をあげた。

「挑戦するものはいないかね?」
 
声の主を探す。
往来に掲げられた旗のもとに派手な衣装に身を包んだ二人組が
その主とわかった。

声を張り上げる男の隣には、
マオリの倍ほどの身長の大男が立っていた。

隆々とした筋肉で肩幅も広い。
虎の模様の毛皮を羽織っている。
一目でその男が剛力だとわかる。

「この男に勝ったならば、金一両が出まするぞ!」
 
呼び込みの男の声に人々が集まって来ている。