最初は隣の村だった。

村人が奇妙な病で死んだ。
下痢と嘔吐で体中の汁気を奪われて、
高熱を出して干上がって死んだ。

本当は国のそこいらじゅうあちこちで
同じように干からびたように死んでいく人が大勢いたのだが、
そんなことはこの小さな山あいの村で知ることもない。

村人は奇病だ厄災だと恐れて、ただただ震えて念仏を唱えていた。
やつらは、どうか自分だけは助かりますようにと、
自分勝手な祈りを捧げていた。

もっとも、人間どもが祈りを捧げに来るのは
おれのいる神社ではない。
おれの神社は、そんな時こそ最も人間どもに敬遠される。

奇病は風にように山を渡って谷を下り、
隣の村の人間どもを次々に取り殺していった。

そしてそれは、その隣の村にも飛び火し、
死んだ人間を荼毘にふす煙が、おれのいる神社からもよく見えた。

おれのいた村の連中はますます震え上がって、
村から出ないようにしていた。
だが、そんな願いもあっけなく、奇病は村を襲った。