おれの指示した場所に家はなかった。

あるのは黒く焦げた柱のみであった。
あとのものは皆、地面に這いずり回るように黒く灰になっていた。
その中に丸い塊が二つある。

マオリは目を凝らさずとも
それが父と祖母の死体であることに気付いた。

細く出ている三日月が、
これほどはっきりと輪郭を浮かび上がらせるとは思えない。

マオリの目にはおれのフクロウの目で見るのと同じように
明るい夜が見えていた。

焼け焦げた黒い土の上に、
横たわる父と祖母の死体の輪郭は黒のうえの黒とは言いがたく、
輪郭がぴかぴかと光って見える。

燃えつくすにはいたらなかったようで、
手には五本の指が残っているのが見てとれる。
空を掴むようなかたちで固まっている。

マオリは言葉を失ったまま、
見たことのない白く輝く夜を眺めていた。
力なく離れた上唇と下唇が震えていた。

おれは大きな町へ行きたい。
じきにたくさんの人間が死ぬからな。
是非ともそれを見たいと思っている。

おれは嬉々として願望を伝えた。
この村から遥か離れた場所に、ほの暗い死のにおいがする。

この二百数十年ぶりに人間たちが殺しあう、
鼻腔をえぐるようなにおい。
マオリは黙って、今おりた階段を静かに上っていった。

体に乗り移ったと言っても、
おれはマオリの思考まで支配しているわけではない。
いや、今のマオリに思考など存在していないのかもしれないけれど。