愚かしい人間どもが放った火で焼かれた弟も、
これで少しは涼しくなっただろうか。

おれもなんとなくマオリの悲しみに沿うようなことを考えてみた。
途端に笑いが込み上げる。

マオリの体を手に入れたおれは自由だった。
どこにでも行くことができる。

嬉しくておれは思わずはばたいた。

自分の中のおれの存在をうまく感じとることがまだできないマオリは、
おれが羽を広げていることにも気づかずに、
再びふらふらとした足取りで
赤い色もはげかけた鳥居に向かって歩き出した。

おい、どこへいくんだ。

おれの呼びかけを無視して、マオリは神社の階段を下りはじめた。

おまえ、正気か。

マオリの肩にとまっておれは言った。

村へ戻れば殺されるぞ。

やっと手に入れた体なのだ。
そうそう簡単に死んでもらっては困る。

もっとも、おれが宿っている限り簡単に死ぬということなど
ありえないのだが。

「おとうと、おばばが・・・。」

いつしか傷の癒えたマオリは、
足取りもしっかりとしてきていた。
ぐんぐんと石段をおりていく。

待て。
行くまでもない。

おれはマオリの目の前に躍り出た。
おそらく、おれの姿をしっかりとマオリが見たのは
その時が初めてだったと思う。
大きな目を丸くしておれの姿に見入っていた。