フクロウの声

マオリ、とおれは呼びかけた。

マオリはおれの声がどこから聞こえてくるのかわからないようで、
不思議そうに声のありかを探した。
 
マオリ、おれはフクロウだ。
 
もちろんおれの姿かたちをわかりやすく伝える言葉ではあった。
しかし、おれの正体をマオリが理解する必要もない。
便宜上のフクロウという呼び名があればじゅうぶんだ。
マオリは自分の手を耳に当て、
ようやくおれの声が自分の中から聞こえてくることに気がついた。

「フクロウ・・・?」

マオリはおれの存在に気づいたようだが、
自分の身に何が起こったのかわからないままでいた。

おれは説明してやった。

おまえは死にかけていた。
弟を抱えたまま、この神社へやってきた。
おれはおまえの体をいただく代わりにおまえは命を得た。

「源太・・・。」

マオリは屍となった上の弟の名前を呼んだ。
ふらりと立ち上がって上の弟のもとへ駆け寄った。

足取りはふらふらと頼りなく、
急速に回復させたマオリの体の重みが
両膝の関節にずっしりとのしかかってギシギシと痛んだ。
 
マオリが意識を失っているあいだに、
カラスが上の弟をついばんだため、
黒くすすけた肌のあちこちから赤い肉が見えていた。

すでにエサとなった目玉のない部分に、
早くも白い糸くずのような蛆がわいている。
 
マオリは膝をついて、恐る恐る上の弟に触れた。

「源太・・・。」

大きな両目から涙があふれ、こぼれ落ちた。
マオリは手でひとつひとつ蛆を取り除き始めた。