フクロウの声

マオリは徐々にはっきりとする視界よりも先に、
その声の主を当てた。

「そうや、夢枕に沖田はんが立ったんや。
 あんたのこと、迎えに行って欲しいって。
 ちょうど店閉めて小田原の親戚のところに身を寄せとったさかい、
 朝一番で飛んで来たんや。」
 
マオリの瞳が開いたことを確認すると、
おかみは堰を切ったように涙声で喋り出した。
 
沖田が迎えに行って欲しいと頼んだ、
マオリが理解できたのはそれだけだった。
 
マオリはふわふわと太陽のにおいのする布団に寝かされ、
明るい部屋で有松のおかみと主人に囲まれていた。

「いっぺんに喋り過ぎや。
 マオリかてびっくりするやろう。」
 
目に大粒の涙を浮かべているおかみを主人がなだめた。

「そないなこと言うて、
 土手で倒れとったマオリ見つけた時は、
 ほんま死んでしもたかと思ったんやもん。」
 
おかみの張りの良い声が懐かしく響いて、
マオリはくすりと笑った。

起き上がろうと体に力を入れたが、
まるで布団が沼になったかのように体が沈みこんで動かない。
 
天井を見上げた。

規則正しく並んだ天井板の木目の模様が美しい。
 
なぜ、生きているのだろうという疑問は沸いてこなかった。
この世から沖田の気配が消えうせている。

誰に言われずともわかる。
あの人は死んでしまったのだと。

しかし、涙が溢れて仕方がないかというと、
不思議とそうでもないのだった。