昔語りはこれで終わりだ。
 
沖田はおれから死神を引き剥がして、
一緒にあの世へ連れていっちまった。

おれは空気に溶けて空へ空へと上っていく。
そして、太陽に焼かれるかと思うほど上って一直線におりていく。
 
マオリ。
 
最後に、マオリの話をしておこう。

 
温かい光をまぶたに感じて、
マオリはうっすらと目を開けた。

四角く囲まれた天井は古い木目が走っている。

「マオリ。」
 
マオリを呼ぶ声が聞こえる。
優しくて、懐かしい声はどこかで聞いたことがあるものだった。

マオリはすっかりそれがあの世だと思って、

「おっかあ・・・。」
 
と手を伸ばした。
その手をふっくらとした両手で握りこんだ感触がある。
 
これは、夢ではない。
 
温かく包まれたマオリの手に伝わる熱で、
マオリはゆっくりと目を開けた。

「ああ、生きとったんやね。」
 
おぼろげながら浮かび上がるのは、
母親ではなかった。

「マオリ、うちよ?わかる?」

「おかみ・・・さん・・・?」

必死にマオリに声をかけるのは、有松のおかみであった。