フクロウの声

おれは白い大きな両肩から生えた翼を広げ、
獲物を掴む鋭い爪でマオリの背中を裂いた。

黒く煤けた着物が破れて、
マオリの柔らかい肌が露わになる。

痩せて背骨の浮き出た背中からおれはマオリの中に入った。

死の淵に吸い込まれていたマオリの体に新しい力が流れていく。
おれの白い体がずぶずぶと背中へ沈みこむ。

マオリに意識があったのならば、
体を引き裂かれる痛みに叫ぶこともできなかっただろう。

黄色がかった、顔の大きさに対して小さなくちばしを
おれはマオリの背中にうずめた。
金色の両目を閉じる。

ぴくりとマオリの指が動き、
もがくように手のひらから伸びた五本の指が、空を掴む。

最後におれの羽が背中に消えると、
マオリの背中には大きな二筋の痕が残った。

それはちょうど、翼をもがれた鳥のような傷跡であった。
 
マオリの中でおれがゆっくりと羽を広げなおすと、
傷だらけの体から流れる血が止まっていった。

マオリの中に巣食っていた奇病も
金色の両目を開けるとマオリの体から
蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 
マオリは自分の体に入っていく不思議な力を感じた。
冷たい死の波打ち際から引き上げられ、
温かい光が注ぐ場所で寝かされているような感覚を味わった。

マオリ、聞こえるか。
おれは今おまえの体をいただいた。

おまえは確かに生きたいとおれに願った。
おれはおまえに命を授けよう。

代わりのおまえの人生をしばし共にする。
もう一度、おまえが死の淵におりるまでのあいだ、しばし、しばしだ。