大きな満月の中におれの影が浮かぶ。
 
おれは裂かれるような感覚に囚われた。

一つは地に引き戻されて打ち付けられるような強く暗い引力。
そして、もう一つは、
はるか遠い昔に感じたことのあるものだった。
 
おれは思い出した。

おれがはるか昔に人間だった頃、
おれはこんなふうに胸を躍らせて走った。

鬼神と呼ばれて戦い抜いた戦が終わって、
愛する者たちの待つ家に走って戻る
戦装束を身にまとった姿のおれを見た。

頬を染め、手には隣国の珍しい土産を持って、
変わりはないか、と声をかけることを今か今かと待っている。

最期には戻ることの叶わなかった場所。

一人馬を駆るおれの前に、残党が立ちはだかる。
鎧はもうほとんど役割を果たさないほど傷ついて、
顔も傷だらけだ。

最後の一本となった矢を、思いっきり引く。
それはまっすぐ、おれの胸目掛けて放たれた。

こうしておれは帰れずに、何千年も時を止めていたのか。
 
眩いほどの月の光に吸い込まれる。