「お別れを言いに来たのは私のほうです。」
 
マオリは鼻にこみあげてくるものをぐっと飲み込んだ。

「ずっと、私は人から求められるまま生きてきました。
 人を殺めることでさえ、
 求められることが私の居場所でした。
 血のにおいの絶えない場所でたった独りだと思っていたんです。」
 
マオリは言葉を続けた。
こんなにも多くの言葉で自分の心を話したのは初めてだった。

「沖田さんに言われて、私は生まれて初めて
 自分で自分の生き方を選ぶことができました。
 人より少ない選択肢だったかもしれませんが、
 私は幸せでした。」
 
沖田の両肩に乗せていた手に力を加えた。

マオリは沖田から離れた。
まっすぐに視線を向ける。

「さようなら、沖田さん。
 あなただけが、暗闇で一緒にいてくれた。」
 
そう言うと、マオリは沖田から手を離した。
きびすを返して植木屋の庭をあとにする。

「マオリ・・・。」
 
そう呼ぶか細い声に振り返ることはなかった。
 
次第に小さくなっていくマオリの背中を、
おれは見えなくなるまで見つめ続けた。
 
ホウ・・・。
 
おれの啼き声に沖田が振り返った。