それは、有松で会った夜に沖田が飛ばしていたものだった。

「ああ、覚えているよ。懐かしい。」
 
沖田は細くなった指でマオリの手から竹とんぼを受け取った。

「君を鬼にしてしまった。私が・・・戦えないばかりに。」
 
沖田は苦しそうに顔を歪めた。

「それは私が選んだことです。
 沖田さんが苦しむことではありません。」

「ただ、君に謝りたいと、
 それまで死ねないと思っていた。」

「死ぬだなんて・・・。」
 
沖田の口から漏れる死という言葉が重い。

「港でひとり刀を振るう君を見て、
 私はなんと酷いことをしたのか、やっと気がついたんだ。
 でも・・・。」
 
沖田は口を閉ざした。

マオリの手にかかっていた重さがふっとなくなる。
沖田はマオリから離れた。

「やっぱり君を置いていってしまう。」
 
マオリは笑った。
悲しそうな目のまま口元だけで微笑んだ。

「沖田さんは、死にません。」
 
マオリはおれを見た。
 
別れの時が来た。

おれはゆっくりとうなずいた。