フクロウの声

おれをおまえの中に入れろ。
そうすればおまえは生きることができる。

それでおれは自由な体を手に入れることができる。
おれは金色の目を見開いてマオリの返事を待った。

マオリの目が閉じかけている。
おれはさらにマオリに呼びかけた。

弟はまだ死んではいないぞ。

おれは半ば嘘をついた。悪戯だ。
何百年と、この埃くさい社に閉じ込められて来たのだ。
人間はおれを死を呼ぶもの、もしくは死そのものだと忌み嫌った。

人間であるマオリに悪戯をすることに、
おれにためらいはなかった。
それよりもこれとない好機を逃す手はなかった。

弟をひとりにするのか。

畏怖され、祀られたのも遠い昔のこと。
人間が神社に来ることもなくなった。
今では神社のある山にすら近づこうとしない。

おれは崩れかけたこの社から飛び立てる機会をずっと待っていたのだ。
この機を逃したくはない。
そう、何百年も、何百年も待っていたのだ。

マオリのまぶたがかすかに動いた。
弟という言葉に反応したのだろう。
今でなければ手遅れだ。

そう思ったおれは羽を大きく広げて飛び上がり、
うつぶせに倒れたマオリの背中目掛けて急降下した。

おれにその体を預けろ。

マオリの黒く汚れた手がすがるように伸びた。

おれと共に生きろ、マオリ。
見えない眩しい光が散って、おれはマオリの体に入った。
マオリの体はビクッと動いた。