おれとマオリは沖田のいる江戸を目指した。
 
マオリは女の格好に戻って、
白い刀は布でくるんで刀とわからないようにした。
 
女であることでつきまとう危険はあったが、
新撰組の者もしくは白い人斬りであるとわかるほうが
危険極まりなかった。
 
何せ、江戸へ向かう道中は北上していく西軍いや新政府軍と
時を同じくする格好になってしまい、
行く先々で小競り合いに巻き込まれる。
おかげで江戸へ着くのにはまだしばらく時間がかかりそうだった。
 
もう一つ、旅路がなかなか進まない理由はマオリにあった。
マオリは江戸へ行くことをためらっているようであった。
そのような足取りであるから余計に遅々として進まない。
 
そのあいだに、近藤が死んだ。

「おい、聞いたか。
 ついにあの新撰組の近藤が捕まったってよ。」
 
宿場で食事をしていたマオリは箸を止めた。

「知らないもんか。
 勝てば官軍とはよく言ったもんさ。おっかねえや。」
 
流山で新政府軍に投降し、
捕らえられた近藤の首が晒された。

「それで新撰組の残党はまだ戦ってるってんだよ。」
 
土方の顔が浮かぶ。
鬼の形相で隊士たちを一喝し、刀を振りかざす姿。

「へえ、大将死んだってのにかい。」
 
マオリは膳を残したまま立ち上がった。
代金を膳のそばに置き、
近藤の噂話をする男たちの元へ歩み寄る。
 
すり抜ける時に、男たちの飲んでいた銚子にわざと手をひっかける。
 
がちゃん、という音がして酒がこぼれた。