「うわああああ」
 
マオリは咆哮をあげた。 
残った兵士たちを睨みつける。
 
赤い瞳に金色の光。
その眼光に兵士たちはたじろぐ。

じりじりと後退する兵士に、マオリは刀を下げたまま一歩、
一歩と近づいた。
 
もうやめろ、マオリ。
 
おれはマオリの目の前に立ちはだかるように飛んで制止しようとした。
 
マオリはおれを振り払うように、
残った兵士たちを狙って突きの構えをとる。
 
もう、おまえが戦うことはない。
おまえが鬼だの修羅だのになる必要などどこにもない。
 
それもマオリの耳には届かない。
もはや、敵味方の区別もつかないようになったのか。

狂ったか、マオリ。
 
おまえが鬼になることなどない。
そう願ったから、沖田はおまえを置いていったんじゃないのか。
 
マオリがぴくりと反応した。
 
すっと刀を下ろす。
 
それを見て、命拾いした兵士たちは退散していく。
冬の乾いた風が、熱くなったマオリの体を撫でる。

「あああん、あああん、おっかあ・・・。」
 
子供の泣く声がして、
マオリはその声のほうを見やった。
 
戦火で焼け出された子供が、
弟の手を引きながら泣いている。

顔は煤で黒くなり、弟はもう泣く力もないようで下を向き、
手を引かれるままに歩いていく。
 
おれは、初めてマオリと会った時のことを思い出した。