周囲にいた町人は異様な空気を敏感に感じ取って、
遠巻きにマオリと兵士から離れていく。
 
睨みあう二人に気づいて西軍の兵士たちが集まってきた。

「よもや、白い辻斬りもおぬしではあるまいな。」
 
兵士の構える刀の切っ先がまっすぐマオリに向けられた。

「いかにも、そうであると言えば?」
 
マオリは低い声で兵士に向かって言い放った。

「西軍から、おまえほどに恨まれているやつはおらん。」
 
集まってきた兵士も次々と刀を抜いた。
 
マオリは音もなく刀に手をかける。

「きええええいっ」
 
この奇声にも似た気合い。
これまで何度も耳にした。

恵まれた体躯で体当たりするかのように、
兵士はマオリの間合いに入る。
 
瞬間、マオリは抜刀し、
鞘で速さを増した切っ先をまっすぐに兵士の喉に突き立てた。
 
兵士の体は高く突き上げられ、マオリが喉元から刀を抜くと、
勢いよくあがる血とは逆に、音を立てて体は地面に堕ちた。
 
どよめきが一瞬、時を止まらせたかに思えたが、
多勢を味方に西軍の兵士たちは
次々にマオリに襲いかかってきた。
 
マオリは、すかさず刀で受ける。

後ろから刀を振り下ろされる気配を感じて咄嗟にしゃがみ込み、
兵士は相打ちになった。
 
するりとその間を抜けると、
続けざまに右へ薙ぎ払い、左へ突いていく。
 
暗闇から現れ、人を斬って去っていく。

白い人斬りと恐れられたマオリは今、
陽の光と血を浴びながら刀を振るう。