翌朝、マオリはむくりと起き上がるとふらふらと歩き出した。
 
おれが呼びかけても上の空で町へ降りていく。
おれはマオリの周りを飛び回りながらついて行く。
 
血で煮しめたような色になった浅黄色の隊服さえも脱ごうとしない。
 
マオリはふらつきながらも、
迷うことなく歩みを進めていく。

その足が向かう先には、
もう共に戦った新撰組の連中はいない京都の町があった。
 
孤独だったマオリに土方が与えた居場所。

その場所に人間どもでいう幸せはなかったが、
人を斬ることでも求められればマオリは応じた。

おそらく、自分が求められていたという記憶だけが
マオリを動かしているんだろう。
 
一日もたたずに、マオリは京の町へ戻った。
 
しかし、町の様子は様変わりしていた。

有松でさえも人のいる気配はなく、
屋敷の中もひどく荒らされている様子がわかり愕然とした。

あの、村で焼き払われたマオリたちが住んでいた
小屋のような家を思い出させる。
 
東軍と西軍がぶつかりあった町は
戦火で焼き出された人々で溢れ、混乱していた。
 
大きな荷物を抱えて逃げる人々の間を縫ってマオリは歩いていく。

「おまえ。」
 
洋装に身を包んだ西軍の兵士がマオリに声をかけた。
マオリは無視して歩いていく。

「おまえ、止まらぬか。」
 
兵士は声を張り上げた。
マオリは足を止め、ぴくりと耳を動かせて、
光のない目で兵士を見据えた。

「その白い刀、おまえ新撰組の人斬りであるな。」
 
兵士は腰の刀をすっと抜いた。