フクロウの声

ためしにおれは、羽を広げてみた。
そして音もなく羽ばたいて地上におりた。

マオリはしっかりとおれの姿を目で追っている。

ガラス玉のような虚ろな瞳がおれに向けられた。
おれはマオリの顔のすぐ近くにおりた。
音はない。

髪は焼け縮れ、顔は煤で真っ黒になっている。
赤く濁った瞳に涙を溜めて、おれを見ている。

「お迎えが・・・きた・・・。」

マオリの口がかすかに動いて声が漏れた。

「おばば・・・白い、フクロウだ・・・。」

マオリはおれを見て確かに笑った。
死ねることが嬉しいのだろう。
マオリにはもう何もない。
住む家どころか村に帰ることもできない。

「悔しいなぁ・・・。」

おれはマオリの声に顔をあげた。

「栄治も、源太も守られん・・・で・・・。」

マオリが流した涙の後だけ煤が流れて痕をつけた。
おれはくるりと首をまわして目を細める。

生きたいのか?

おれはマオリにたずねた。

返事をするように大きな涙の粒が石畳に落ちて灰色の円を描いた。

あと二度ほど息を吸って吐いたらマオリは死ぬだろう。
おれはマオリにまたたずねた。