「うぎゃああっ」
 
斬りかかってきた男は悲鳴をあげた。

男の両腕が飛ぶ。
びしゃっと音がして血が地面に散った。

「おのれ!」
 
次の男が刀を抜いた。
もう数人の男どもがおれを囲んでいる。

「うあああああっ!」
 
おれは雄叫びをあげた。
 
どこからでも、何人でもかかって来い。
おれは今虫の居所が悪い。
 
一体、なんだってこんなことばかり起こりやがる。
 
マオリ、泣くな。生きろ。


「マオリー。」
 
沖田の声は咳と潮風にかき消された。
マオリが西軍の兵士たちに囲まれているのが船上からでもよく見える。

「船を戻せ!」
 
永倉が怒鳴り声をあげた。

「もう無理だ、諦めろ。」
 
身を乗り出す永倉の襟を土方は掴んで引き戻した。

「何言ってやがんだ。
 あれが見えねえのかよ。
 戻って仲村を助けるんだよ!」
 
永倉は今にも海に飛び込みそうな勢いで身を乗り出した。
 
マオリはまさしく死神のごとく、
斬っては反転し、
次々に迫り来る兵士たちを斬り伏せていく。
 
全身に血を浴びて真っ赤に染まっていくのが見える。
きらりと刀が太陽を反射させると同時に血しぶきがあがった。
 
土方も船べりを痕がつきそうなほどに掴んで、
歯を食いしばっている。