「沖田さあああん!」
 
マオリは船に乗っているであろう沖田の名を呼んだ。

港にいた数人が振り返る。
もうここにも西軍の手は伸びていた。
浅黄色の隊服を着て沖田の名を呼べば、
マオリが新撰組の人間だということは一目瞭然である。
 
利用するだけ利用しておいて、
最後は見殺しか。

あんな連中のために、
マオリがこれ以上危険にさらされるのは癪である。
おれはマオリの声を止めた。

「・・・っ。」
 
マオリは突然声が出なくなった自分の喉を押さえた。
涙が溢れてくる。

ぽたぽたと大粒の涙が、
重さに耐えかねて頬を伝うことなくそのまま地面に落ちていく。
声の出ない喉元をかきむしる。
爪のあとが赤く、幾筋も白い肌に浮かび上がる。


「総司、これでよかったのか。」
 
羽織を肩にかけ甲板に立つ沖田に土方は声をかけた。
 
潮風に乱れる髪をおさえて沖田は振り返る。

「ええ、すみませんでした。」
 
沖田の声は今にも沖へと吹く強い潮風に消えそうになる。

「総司!どういうこった。
 なんで仲村を置いて行く?
 返答次第じゃただじゃすまさねえぞ!」
 
永倉が土方を押しのけて沖田に詰め寄った。

「新八、やめろ。」
 
甲板に出ていた原田や斉藤らの幹部も
今にも沖田に殴りかかりそうな永倉を止めに入る。