「おい!退却だ!薩摩の銃隊が来てやがる!」
 
永倉もまた、隊士たちを退却させながら刀を振っている。
 
近づいてくる火薬の匂いと銃声にマオリもやっと気づき、
撤退のため後ろに下がった。
 
マオリは、自分の中からこみ上げてくるものに気づいた。
 
あと少しなのに・・・。まだ、戦えるのに。
 
悔しい。悔しい。
 
いつのまにか、マオリは感情を持って刀を振るっていた。
以前は、刀を振っている時の記憶さえも曖昧であったというのに。

病床で咳き込む沖田の細い背中が浮かんだ。
 
勝ったと言って、報告する日を待ちわびていた自分がいる。
病が治ったと言って、
刀を携えた沖田が自分に笑顔を向けてくれることを望んでいた。

沖田さん、これからは一緒に戦えますね。

叶いもしない希望を言葉にしてみる。
 
マオリの目に熱いものが溢れた。
それを拭う暇もなく、
退路を確保するためにマオリはしんがりとなって戦った。
 
視界が涙で滲んでも、
どう動けばいいのか自然とわかり、
その小さな体に不釣合いな刀を軽々と振っては血を浴びた。