「死神にですか?ははは、どうりで仲村さんの剣は
 神がかっていると思いましたよ。」
 
隊士は笑った。
頭に巻いた包帯が痛々しい。
彼もまたあの砲火の中を生き延びた一人だ。

「死神か。今はそれにも頼りたいところだ。」
 
土方がマオリの隣にしゃがみこんで焚き火に手をかざした。

「以前、私に死神を背負って何をすると聞いた男がいました。」
 
マオリは坂本龍馬に言われた言葉を反芻した。
あれから何度も何度も自分の中で繰り返し自問してきた言葉。

「ほう。」
 
土方は興味深そうにマオリをのぞきこんだ。

「私は、あの人のために戦おうと思うんです。」
 
マオリは焚き火の炎を見つめたまま言った。
大きな瞳に炎が映りこんで燃えている。

「総司か。」
 
一瞬、土方は顔を曇らせたが、
マオリは気づく様子もない。

「はい。私が代わりにこの命を使って戦います。」
 
マオリは土方に顔を向け、にっこりと笑った。

土方は初めてこの少女の笑顔を見た気がした。

しかし、それはその年頃の娘が見せるあどけないものではなく、
どこか正気でないものを思わせる危うげなものだった。