「おう、まるで鬼神だったな。」
 
古参の隊士であり十番隊を率いる原田も続いた。

「砲火が一瞬止まって、
 斬り込むことができたのはこいつが単身、
 砲撃手に斬りこんで仕留めたからさ。」
 
砲撃に一人立ち向かっていくマオリの姿は、
隊士たちの目に焼きついたようだった。
 
凄惨な戦いから命を長らえた隊士たちにも、
敗戦の疲労の色は明らかだった。

そんな中ではあったが、
マオリの戦いぶりを口にする時には笑顔が戻った。
 
まだ、侍の時代は終わらないんだという願いは、
刀一本でどこまでも戦い抜いていってしまいそうな危うげな
マオリの姿そのものでもあり、勇気でもあった。
 
マオリは何も言わずに、照れくさそうにしていた。

そうしている時はやはり、少年のようでもあり、
ふっくらとした頬を野営の炎がちろちろと紅色に照らしている。

あれだけ血を浴びて肉を絶った刀であるのに、
懐紙でぬぐうだけであっというまに
鍛え上げたばかりのような輝きを放った。

さすがにそれには周りの隊士たちも驚いていた。

「仲村さんの刀、不思議な刀ですね。あれだけ戦ったというのに。」
 
一人の隊士が声をかけた。
それまでマオリは正体不明という雰囲気も手伝って、
土方から事情を聞いている幹部以外はほとんど
マオリと接点を持つことはなかった。

「ああ、これは・・・死神にもらったものだから。」
 
マオリは何度も死線をくぐりぬけた白い鞘を
ぎゅっと引き寄せて握り締めた。