「永倉さん、すみません。すぐ降ります。」
 
マオリは慌てて永倉の背中から飛び降りた。

「奉行所から火の手があがった。高瀬川の堤防まで退くぞ。」

「負けたのですか。」

「・・・負けちゃいねえさ、まだ。」
 
永倉は悔しさを隠せずに唇を噛みながら答えた。
多くの部下が倒れている中を退いていく。
 
揃いの浅黄色の隊服が血と土に汚れて落ちている。
その下は肉塊となりはてている。

「畜生。」
 
永倉は息のある味方に出会うたびにつぶやいた。
彼らを助ける余裕はなかった。


「生きていたか、新八。」
 
迎えた土方は、永倉の顔を見ても厳しい表情のままだった。
それは永倉も同じで、

「ああ、なんとかな。」
 
と、一言言うと、どかりと座り込んだ。
 
どこからもたらされる報告も同じで、
多くの隊士を失い戦況は不利だということだけだ。

「もう、刀や槍で戦う時代は終わっちまったんだな。」
 
土方は疲れた様子で眉間を揉んだ。
それを聞き、永倉始めとする古参の隊士たちも
口をつぐむばかりだった。

「いやあ、それにしてもよ。
 仲村の戦いっぷりを見てると刀の時代が終わっちまっただなんて、
 そんなこたぁ言ってらんねえぜ。土方さん。」
 
永倉が大きな腕を広げてわざと明るく言った。
皆の輪から少しはずれたところで膝を抱えていたマオリは顔をあげた。