フクロウの声

奇病がうつると言われては、
村人もうかつにマオリに近づくことができない。

マオリはくるりと後ろを向いて駆け出した。

「逃げたぞ!」

村人の一人が叫んだ。

「やめとけ、どうせ死ぬ。」

他の村人が制止した。
苦渋に満ちた村の人々の顔を、父と祖母を巻き込んだ炎が照らしあげる。

マオリの家を包んだ炎は高く火炎を巻き上げながら、
空へ上っていく。

燃え盛る家を背に、マオリの前には闇しかなかった。

後ろには死、前には闇。

マオリは何も見えない闇の中へ走りこんでいくしかなかった。

おれの住み処からも、炎がよく見えた。
人間どもが罵り合う声もようく聞こえた。

おれはおかしくて、羽を広げてげらげら笑った。
その声がホウホウと夜に響いて気持ちがいい。

おれは羽を月に透かしてみる。
夜は特に、おれの目も耳も冴える。
だから、マオリが近づいてきたことにもすぐに気がついた。

なにしろ、おれの住み処であるこの神社には村人は寄り付かない。
ここを目指して逃げてくるとは、
マオリはなかなか頭の良い娘だと思った。

おれは静かにマオリが来るのを待った。

マオリが瀕死の上の弟を何度も抱き直しながら、山を登ってくる。
裸足の足を棘が刺して血が流れている。
しかし、マオリはそんな小さな痛みに気づきはしないだろう。