「私の出る幕もなかったようだ。」
 
沖田が刀を手に、残念そうな声で言った。

「ここを出たほうがよさそうですね。」
 
マオリは血のついた刀を懐紙で拭き、鞘におさめた。

「なぜ嘘をついた。」
 
沖田は近づいてきたマオリに言った。
ひどく苛立った感情を抑えられないというようであった。
こけた頬に眼光だけが鋭く光る。

「私はここにいる。戦える。」
 
沖田は髪を振り乱し、かすれた大声をあげた。

「沖田さんが戦えないという意味ではありません。
 孝子さんがあなたを匿っていたことがわかれば、
 今後も危険にさらされるでしょう。」
 
マオリは有松のおかみを思った。

興奮する沖田をなだめようとするが、
どのように語りかけていいのやらわからず、
淡々とした口調でしかマオリは話すことができない。

「一隊士が護衛にあたっていたと思わせたほうが得策だと思います。」
 
マオリは沖田を諭すように言った。

「私はまだ、戦える・・・。」
 
沖田は大声をあげたせいか、咳き込んだ。

「戦える、戦える・・・。」
 
体の中の蜘蛛の巣を引きちぎって出そうとしているかのような
激しい咳をしながら、沖田はつぶやき続ける。