フクロウの声

「薬はここに置いておきます。
 私は支度がありますから、これで失礼します。」
 
土方に指示された時刻が迫っていた。
浅い寝息をたて始めた沖田の返事はなかった。

「薬をちゃんと、飲んでください。」
 
返答のないまま、マオリはもう一度声をかけた。
そして膳を持ち立ち上がった。
 
部屋の灯かりに照らされた沖田のこけた頬が影になる。
壁際に置かれた刀が長い影を作って揺れている。
 
マオリはほとんど持ってきた時と変わらない状態の膳を持って、
沖田の部屋を出た。

 
膳を戻して、マオリに与えられた小さな部屋に戻ると、
暗闇に浮かび上がる白い鞘の刀をとった。
 
ゆっくりと鞘から刀を抜く。

鈍い光が放たれる。
刀身に映る自分の顔をマオリは眺めた。
 
時刻が迫る。

今頃、伊東は近藤に招かれた彼の妾宅で酒を呑んでいる。
 
マオリは刀を鞘に戻して腰に差した。

そして音もなく障子を開けて部屋を出ると、
他の隊士に会わぬよう気配を消して屯所を出た。