フクロウの声

祖母はしわの寄ったまぶたをあけて目を見開いた。
のど元の吐瀉物、汚れた下半身。
父が弟と同じ病にかかっているのは明らかだった。

「いいから、早く村を出んだ!」

父は一つしかない小さな箪笥を開けて中身を次々と放り出した。
マオリは何がなんだかわからずに、
父の様子を見ていた。

父は急に手を止めて、戸のほうを見た。

「おと・・・」

「しっ!」

上の弟が話しかけるのを制止すると父は耳を澄ませる。
マオリは上の弟を抱き寄せて、父を真似て耳を澄ませた。

かすかに声が聞こえる。
大勢の怒号のような声がだんだんと近づいてくる。

上の弟がマオリにぎゅうっとしがみついく。
マオリも上の弟を抱きしめた。

「もう、おしめえだ・・・。」

父はがっくりと膝をついた。
無意識のうちに下痢を垂れる父の着物は、
下半身がぐっしょりと濡れていた。

頼りない明かりがゆらゆらと、恐怖の迫る狭い部屋を薄暗く照らしている。
マオリの家はあかあかと燃える松明を持った男たちに囲まれた。
騒ぎを聞きつけた村人たちも遠巻きにマオリの家を見ている。
マオリは戸の隙間から外の様子を伺った。

「おとう、村のみんなが囲んでる。」

マオリの着物の裾を上の弟がしっかりと握り締めている。
祖母は部屋の隅で固くなって手をあわせ、念仏をとなえている。

「おら、みんなと話してくる。」

マオリは外に出ようとした。

「やめろ、殺されるぞ。」