フクロウの声


「食べられますか。」
 
マオリは膳を沖田のそばへ出した。

「いや、あまり食べたくはないね。」

「私が土方さんに怒られます。無理でも食べてください。」
 
思いもよらず、マオリが強い口調で言ったので
沖田はしっかりと目を開いた。

「姉さんのようなことを言うね。」
 
沖田はゆっくりと起き上がった。
マオリは背中に手を添えて沖田を助けた。

「弟が二人いましたから。
 祖母も病気がちで、それで人の世話は慣れているんです。」
 
マオリは沖田に椀を渡した。
沖田はそれを素直に受け取ると、湯気の立つ椀のにおいを嗅いだ。

「そんなふうに言わないで欲しいな。
 私はまだまだ役に立つよ。戦えるんだ。」
 
椀を持つ手にかすかに力が入るのが見て取れた。
マオリは沖田の瞳にしっかりと炎を見た。

「土方さんに聞いたけど、伊東さんを斬るそうだね。」
 
沖田は一口椀をすすり、
揺れる吸い物から視線をそらさずに言った。
あたりを気にするような低く小さな声であった。

「はい。私が斬った後、
 死体を使って残りの隊士をおびき出すそうです。」
 
部屋が暗くなってきたのでマオリは灯りをつけた。

マオリ自身は暗くてもものを見るのに困りはしないが、
余計なことで不審がられてはいけないと気を使った。
 
ほのかな灯りがともり、
橙色の影が沖田の少しこけた頬に落ちた。