「沖田さんか。
 あの人はな、近藤さん、土方さんの下に
 一番から十番までの隊があるんや。
 沖田さんは一番隊の組長で副長助勤っちゅう立場やな。」
 
近藤、土方に継ぐ立場にあると聞き、
あのひょうひょうとした沖田からはどことなく想像しづらい。

「剣の腕はまあ、沖田さんが一番やろうなぁ。」
 
山崎は自分ことのように自慢げに言った。

「やはり、そうなんですね。」
 
マオリは冷静に沖田の剣を思い出した。
あれほどの使い手がそうごろごろといるわけがない。

これまで土方との連絡役であった山崎烝は、
監察方と名乗っていたが、
さまざまな装いで情報を集め伝える役であった。
 
そのため屯所の入り口でマオリと別れたわけであったが、
数少ない見知った顔であった山崎と離れるのは
幾分心細いものではあった。
 
マオリは遠くなる山崎の背の薬箱を見つめ、
やがてそれも豆粒のようになると、
決心して屯所の門をくぐった。