近江屋の中は温かく、
どこかの部屋から食べ物を煮炊きするいいにおいがしてきていた。

「おおきにどした。」
 
マオリはまた笑顔を作って礼を言った。
雪を払いながら続ける。

「あ、かんぬきはしないでおくれやす。すぐ帰りますさかい。」
 
マオリは紅色の着物を脱ぎ捨てた。

振り向いた太った男は
紅色の着物の下から白い着物が現れるのを見た。

その腰には同じく白い柄、白い鞘の刀が差してある。
鍔だけが金色に光る。

「坂本はん!敵や・・・」
 
男は二階に向かって叫んだ。

言い終わらぬうちにおれは刀を抜いた。

鞘で滑らせて速さを増したまま、
肉のひだに埋まった首元めがけて振り払った。

「ぎゃああ!」
 
木戸の内側に鮮血が散る。
が、分厚い肉に阻まれて絶命にはいたらなかった。

二階におれとマオリの存在を伝えようと
背を向けたところをさらに斬りつけた。

たまらず男はうつぶせに倒れ、土間に血が広がっていった。