「おら・・・ここに来るまでになんべんも死のうと思った。
 おとうもおばばも、二人の弟も目の前で死んでった。
 おらだけが助かって、なんの意味があるべえかと、
 なんべんも死のうとした。」
 
マオリは涙をこらえた。

せっかくおかみが時間をかけて抜けていった田舎なまりが
自然と出てきてしまう。

「土方さんは、おらに居場所があると言ってくれた。
 おらが必要だと言ってくれたんです。」
 
おかみは涙をためた目を上げた。

「土方はんは、あんたを利用してはるだけや・・・。」
 
うるうるとおかみの瞳が動いた。
限界を越えた涙がしずくになって落ちた。
 
マオリはうなずいて見せた。
おかみはそれを見てますます泣いた。

「わかっています。」
 
おかみの手をぎゅっと握り返した。

「おかみさん・・・一度だけ、
 おっかあと・・・呼ばせてもらえませんか?」
 
おかみは顔をあげ、マオリを見つめた。

「ええよ。いっそのこと、うちのお子になってよし。」
 
おかみはマオリを抱きしめた。
そして、大きな声をあげて泣いた。

「あんたのこと守ってあげられへんで、かんにんえ。」

「おっかあ・・・。」
 
マオリは大きなおかみの背中に両手をまわし、
これで最後だと泣いた。