会社と家までは電車で30分ほどの距離だ。通勤時間が30分と言うのはとてもバランスがいいと思っている。

その30分の間で、会社でバリバリ働くキャリアウーマンの私から、彼氏にぴったりべったりの甘えんぼキャラになる私への頭の切り替えがちょうど出来る。会社へ行く時はちょうど逆になる。15分程度では切り替えが終わらないうちに家についてしまいそうだし、1時間以上通勤に時間がかかるのも嫌だ。30分がちょうどいいと変な持論を確立していた。

電車にゆられながら、『今から帰る』と篤彦にメールをした。1駅着くまでの間にすぐ返事が返って来た。

『ジュニアと一緒に駅で待ってるから。早くおいでー』

ジュニアの散歩は篤彦が買ってでてくれている。日頃執筆活動で家から一歩も出ないような生活をしているので、ジュニアの散歩はちょうどいい運動不足解消になるそうだ。

そうといっても篤彦は長身で食も細い。特に太っているわけでもないし、どちらかというと痩せすぎなほうだ。足なんて私のほうが太いんじゃないかと思うくらいの細身だ。犬の散歩くらいではとても体力はつきそうにないが、筋肉はもう少しついてもいいんじゃないかなぁ。そんな思いをめぐらせているうちに駅についた。

ホームを駆け上がり、改札をくぐる。駅の出口へ足早に向かい、リズム良く階段を下りると、駅前の通交止めに腰掛けて待っている篤彦の姿が目に飛び込んできた。ジュニアが相変わらず足にまとわりついている。

「篤彦!」

私は満面の笑みで走り寄った。

「お帰り」

篤彦も満面の笑みで迎えてくれた。