さきほどメールをしたばかりで握りっぱなしにしていた携帯がブルっと震えた。篤彦はいつも返事が早い。

『まだお腹すいてないから食べてないよ。できればあゆみが帰ってきたら一緒に食べたい』

時間もあまりなくあわただしい朝にせっかく夕飯の準備をしてきたのに、私が帰るまでご飯を食べないなんて!と少し腹立たしくもあるが、それ以上に私と一緒にご飯を食べたいと言って待っている篤彦の姿を想像すると、口端が自然と緩んでいたことに気付かなかった。

『わかった!なるべく早く帰るようにするから、一緒に夕飯食べようね^^』


「にやけながらメールして…。気色悪いヤツー」


不意に話しかけられ、びくついて辺りを見回した。白いコンビニ袋をぶら下げて岡野がこっちを見ていた。

「う、うるさいなー。…てゆーか、マジでにやけてた?私」

「うん。そりゃーもう気持ち悪いくらいに。相変わらずラブラブじゃんか」

篤彦との事は、岡野も知っている。前に会社まで迎えに来たことがあって顔を合わせてもいるのでそれなりに面識がある。

「ま、うちは万年ラブラブ新婚夫婦ですから〜♪」

パタンと携帯を閉じて、きびすを返すかのようにモニターへ向き直した。

「悪いけど、ダーリンが待っているのでさっさと仕事仕上げてお先に失礼させてもらいます」

「へーへー。お先にどうぞ〜。」

篤彦がご飯を一緒にたべたいと私の帰りを待っていると思うと、やたら仕事に集中できる気がする。これが夕方6時からのマジックだ。午前中の3時間と、この時間帯からの3時間では、同じ3時間でも仕事の進み具合が全然違う。

夜から仕事のエンジンがかかることが多いスロースターターなクリエイターは多いと思うが、私の場合はそれに加えて、愛するものが待っているという心地よいプレッシャーがさらに集中力を高める。

定時を過ぎてからの鳩時計くんの3回目の姿を見る前に会社を出た。