怒られる。
 私は咄嗟にそう思った。
 切ってしまおう、私はそう思って赤い電話のボタンを押した。
 だが電話は切れなかった。
 私は何度も何度もボタンを押した。
 デモ結果は同じだった。
 私は諦めて再びスピーカーを耳にあてた。「あなたは、誰?」
 電話の向こうから声が聞こえた。
 私は自分の名前を告げた。
 電話の向こうからは啜り泣く様な声が聞こえてくる。
「お姉さん、何で泣いているの?」
 私は問いかけた。
「何でもない、何でもないのよ」
 お姉さんは悲しそうに応えた。
「お姉さん、泣かないで…」
 私は言った。
 それから私とお姉さんはとりとめのない会話をした。学校のこと、友達のこと、両親のこと、そしていつも一人で夕食を取ること…。「あなたも寂しいのね。でも偉いわ…」
 お姉さんは言った。
「偉くなんてないよ。仕方ないんだもん」
 私は応えた。
 気がつくと時計は十一時を指していた。
 私のもとに睡魔が訪れる。
 私はまた明日お姉さんと話をしようと約束をして電話を切った。
 けれども二度とお姉さんと繋がることはなかった…。