錆び付いた車輪が悲鳴を上げながら、僕達を運んでいく。
ザワメキのない明け方の駅へと…。

君を乗せてペダルを漕ぐ僕の背中には、確な温もりと小さな鼓動があった。

この線路沿いの坂道を、いつもは軽々上っていたのに今日だけは無理かも知れない。

『あ~ダメだ、もうこげねぇよ。』
そんな僕の後ろで君は楽しそうに声をあげる。
『ホラ、頑張れ!もうチョットだから。』

上れない訳じゃない、上りたくないだけなんだ。
なんていう僕の気持も知らないで君がはしゃいでるのがやけに悔しくて、返事はしないまま漕ぎ続けた。

坂の頂上が近付いてくると、胸の片隅に小さな渦が広がる。君を乗せて走る時間の終わりも近付いているから。

『世界中に二人だけみたいだね。』
不意に呟いた君の言葉は静かな明け方の街に響いた気がして、寂しさを僕の中に募らせた。

とうとう辿り着いた頂上には、綺麗な朝焼けの空があった。二人は同時に言葉を失くした。
あまりに綺麗過ぎて僕は言葉に詰まったのに、その後ろで君は確かに笑っただろう。
だけど、振り返る事が出来なかった。もう泣いていたから。

そんな十五才の夏の終わりの一日を、君の何もかもを今も覚えている。