理系彼氏!

樹里の家に着くなり、私は樹里の腕に飛び込んで泣きじゃくった。

「何、どうしたの?」

樹里は何があったのかを問いただす。
私は、樹里の考えたことを実行したのだと話した。
些細な喧嘩。
それが数字ばかりで嫌になる。

「ふうん、じゃあ達也くんがくるのを待てばいいわよ。私なら追い出したりしないから。」

あいにく彼氏もいないんでね、と樹里は笑う。
不安が一時的にだけど、晴れた気がした。

「うん、ありがとう・・」

友達はたくさんでなくていい。
幼い頃に母から聞いた話。

『数だけあってもそれは友達とはいえない。』
『どうして?』
『本当に友達ならば数はいらない。少人数の子をわかってあげたり、理解しようとしてあげることができるのが本当の友達よ』
『そっかぁ、樹里ちゃんとみづきちゃんは?』
『その子達との縁を大切になさい。友達は簡単には作れるものではないのよ』
『はぁい!』


幼い頃の私は、純粋無垢だった気がする。
でも、これから自分はどうしたらいいかわからないから母の言うことを聞いていただけ。
いや、違うかも。
母のお気に入りでいたいだけ。
うん、きっとそうだ。

でも、私には兄がいた・・それはそれは出来のいい兄だった。
幼い頃の私は兄よりも頭が良かった。
兄のが劣っていたくらいだった。
だから、その時は私は愛されていたんだと思う。
いつからだったかなぁ・・数字が嫌いになったのは。

『明日香!どうしてこんな問題も解けないの!?お兄ちゃんはできてるのに!』

できなければ叩かれる。
常に比べるべきは実の兄。

『お兄ちゃんはいい子ねー、いつもテストでトップの点数ですものね』
『へへ、頑張ったよ』
『偉いわね、今日はお兄ちゃんの好きなものを作りましょうね。』
『じゃあ、ハンバーグがいい!』
『いいわよ、じゃあお兄ちゃんは遊んでらっしゃい』
『え?でも・・』
『息抜きも必要よ』
『じゃあ、明日香も一緒に行こうよ』
『・・え?でも私・・』
『そうよ、明日香は点数もまともなものじゃないんだから食事だってもったいないくらいよ。そうだわ、明日香。あなた今日の勉強、全問正解するまでご飯はお預けよ』

泣きたかった。
兄の出来の良さはそれはそれは素晴らしいものだった。
うちは文系だったけど、それなりに数字も使わされていた。
どちらを選んでも大丈夫なように。
世間に出ても恥ずかしくないように。

そんな母の教育にも耐えて私は大人になっていく。
次第に優しかった兄は、私が追いつかないことをいいことに馬鹿にしだした。
あれは、もう私の知ってる兄ではなかった。