彼の指差す方向にはベットを埋め尽くすほど無数の犬のぬいぐるみがあった。

何故それを知ってるの・・?
それを知ってるのは私と・・

「なんでそれ知ってるの?」
「樹里さんに聞いた」

やっぱりね。
樹里のおしゃべり・・と心の中で泣きじゃくる私。
それでも彼はお構いなしに続ける。

「でも、仕事の関係で昼間犬一匹にさせるのは可哀想だから飼えないままなんだってきいた」

そうですよ、そのとおりですよ。
おかしいでしょうとも、笑いたきゃ笑いなさいよ。
犬一匹に何悩んでるんだって笑えばいいじゃない!

「そうよ、笑いたきゃ笑っていいわよ」
「なんで笑う必要があるの?」
「だって、周りはみんな馬鹿だなって笑うもの。犬一匹に何を考えてるんだって」
「俺は少なくともそうは思わないけど。」
「・・だったら何よ、何が言いたいのよ」

我ながら、嫌な言い方だと思う。
でもあとには引けない。

「やけに刺さる言い方をするね。」
「ごめん・・」
「いいけどね。で、昼間だけなら預かってもいいよ」
「でも・・」
「夜取りに来るのが大変なら俺がここに来てもいい」
「お仕事は・・?」
「家でもできるよ。パソコンもってれば大体できる」

そういうものなんでしょうか・・。

「でもうちにはパソコンないし・・」
「俺のもってけばいいだけの話」
「デスクトップ!?」
「まさか。普通にノートだよ」

ノートパソコンってそこまでスペックあるのかしら・・?
そもそも、うちには回線ないよ・・?

「うちには回線ないよ?」
「明日香さんは、Wi-Fiも知らないの?」
「わいふぁい?」
「うん、説明めんどくさいから自分の携帯で検索でもしてくれると嬉しいな」

とても親切でとても冷たい人間だとこの時思った。
・・でもまぁ、それが彼のいいところかもしれない。

「で、犬欲しいんでしょ?」
「うん。」
「なんの犬が欲しいの?」
「茶色の犬・・」
「犬種は?特にないなら知り合いにタダでもらってくるよ」
「いいの?」
「いいよ」

そんなこんなで明日の夜一緒に達也くんの知り合いの家に犬をもらいに行くことになった。