私は緊張していた。


三成様の部屋の中には張り詰めた空気が充満している。


「吉継」


城主は静かに来客、大谷吉継様の名前を呼んだ。


吉継様は三成様の古くからの友人だという。


しかし、患いの身であるため顔は布に覆われて目だけ出すような格好になっていた。


「夢物語だな」


三成様が上杉家と結託して徳川軍を挟み撃ちにする作戦を話すと、吉継様はため息まじりに言う。


「三成、お前は本当にあの家康に勝てると思っているのか?」


「義が不義をくじくのは当然であろう?」


「悲しいことだが義ですべての理屈がまかり通るわけではない。人はむしろ義より利益を優先したがる」


「だが」


「それに力の差もある。徳川はざっと二五十万石。お前は十九万石だ」


「そう言うと思って手はすでに打ってある。徳川に次ぐ百万石を超える大名、毛利家を味方に付けた」


三成様がそう言っても論争は続く。


「だが、あそこは内部で西軍か東軍かで対立が起きているのではなかったか」


「しかし、当主の輝元殿はオレ達に味方してくれる安国寺恵瓊(えけい)殿の意見を聞き入れたらしい。ならば反対派の者もそれに従うしかあるまい」


「三成は楽観しすぎだ。輝元殿は人当たりがいいだけの人物だと聞く。東軍派にそそのかされて意見を翻さぬとも限らない」


史実を知っているだけに、私は先程から「そうだ!」と大声で吉継様に同意したかった。


「吉継」


三成様は再び悲しげに友の名前を呼び、言った。