「いけませんね。こんな危険な男に背中を向けるなんて」


「やめて下さい」


「その割には抵抗しないんですね」


悪びれもせずそう言われて腹が立ち、暴れてやろうと思った。


しかし、その瞬間。


「っ!」


ふいに右耳に電気が走った気がした。


左近様に噛まれたらしい。


少しでも甘い痺れを感じた自分が嫌になり、振り向いてキッと彼を睨みつけた。


「最低です、左近様。他人を弄ぶなんて」


私を愛してくれないのにこんなことするなんてセクハラだ。


「いい加減、意地を張るのはやめたらいかがです」


「意地なんか張ってませんよ」


腹立たしいのに呼吸が苦しいくらい、もっと胸がドキドキしている。


おかげで口先だけの強がりしか言えないのが悔しい。


「それに、弄んでいるつもりはありませんが」


「な、自覚してないんですか?!」


私はこんなに心を掻き乱されているのに。


「いくら誑しの左近でも、女だったら誰でもいいってわけじゃないんですからね。興味のない、いや、本気にさせたくない女を誑し込んだりしませんよ」


「え?」


それって…。


「…」


照れくさそうに黙ってしまった彼を追いつめるように言う。


「言って下さいよ」


すると彼は何かを覚悟したかのように、一息ついてまっすぐにこちらを見た。


「なら、言います。友衣さん、俺はあんたが…」


さっきとはうってかわって真剣な視線に射抜かれる。


その時。


「おい、左近」