「逃がしません」


パシッと手首がつかまれる。


「ほら、ちゃんとこっちを向いて」


肩に触れられ、くるりと体が動かされる。


何を言われるんだろう。


「友衣さん、すみません」


「え?」


意外にも、彼の口から出たのは謝罪の言葉だった。


「軽々しくあんたの個人的なことを聞いて」


どうやらプライバシーを気にしているようだ。


「いえ」


そんなこと、微塵も考えなかった。


「私はただ」


ただ、あなたに…。


喉まで出かかった言葉をかろうじて飲み込む。


本心を伝えたいのに、伝えたら今の2人でいられる時間が壊れてしまうような気がした。


「やっぱり何でもありません」


笑ってごまかすしかなかった。


「言いかけておいてやめるなんて」


左近様は不服そうだが、私はもうちょっとだけ告白は先でもいい気がしていた。


石田家家老、島左近。


私の意地悪な男性(ひと)。


そして、私の好きな男性…。