とくん。


胸が高鳴る。


「左近様」


「何です?」


私はそっと左近様との距離を縮める。


そして言葉を発したかったが、胸が詰まって何も言えない。


きゅっと唇をかみしめる。


好きで、大好きでつらい。


泣きたいくらいつらい。


「ったく、そんな顔しないで下さいよ」


笑いながら子供をあやす親みたいに頭をくしゃくしゃと撫でてくる。


そして彼の手が私の顔に伸びたと思うと…。


「にゃっ?!」


頬をつままれた。


「あんたには泣き顔より笑顔の方が似合います」


「左近様…」


「そんなに心配してくれるなら約束しましょ?」


「?」


「近々戦になるでしょう。ですがこの左近、必ず勝ち、そして生きて帰って来ます」


「絶対ですからね」


「はい。絶対」


私を安心させるような微笑が浮かんでいる。


「もし生きて帰らなかったら恨みますからね」


「そりゃ大変だ。這ってでも帰還しないと」


そうおどけた後、左近様は急に真面目な顔になった。


「人は守りたいものがあれば強くなれるんですよ」


「守りたいもの?」


「ええ」


「三成様のことですか?」


「はい。そしてあんたもです」


ドキッとした。


「あんたみたいな泣き虫、心配で目が離せませんからね」


「うっ」


言い返したいが当たっているので言い返せない。


「だからもう悲しそうな顔はしないで下さいね」


そうやって優しくするから余計につらくなることをこの人は知らない。


私は高まる想いを感じながらただ頷いた。


慶長5年3月。


関ヶ原の戦いまであと半年。


そして伏見城の戦いまであと4ヶ月の時が迫っていた。