「家康が関ヶ原での大戦が終わって報告に来た時、三成らを引き回した後に晒し首にすると申していた」


いつも凜然としている姿からは想像しにくい、少しうつむきがちな淀の方様。


「私は三成らが太閤殿下の恩顧の者であったことを訴え、命だけは助けるように言った。亡き殿下もそれを望んでおられぬであろうと」


「…」


私達は沈黙で話の続きを促す。


「しかし、それでは示しがつかぬと言われたのじゃ。豊臣に楯突いた者の末路はこうであると世に知らしめなければ今後も逆賊が出るだろう、とな」


「逆賊だなんてそんな。あの方はむしろ豊臣家のために戦っていたのに!なのに三成様は…見せしめのために…」


あまりの理不尽さに悔しくて強めな言葉が出、感情が火山のようにドッとこみ上げる。


震える私の肩を、左近様が優しく叩いてくれた。


「私は反対出来なかった。表向きは家康が、豊臣に楯突く三成ら逆賊を破ったことになっていたからな」


「殿らに反逆者の汚名を着せ、あくまで自分は悪を成敗したという印象を諸大名や民に与えたかったわけか。まったく家康らしいやり方ですな」


皮肉めいた感じで左近様が言う。


「私が…三成を殺してしまったのかもしれぬ。あれほど殿下の、豊臣のために力を尽くしてくれた者を、何も出来ずに死なせてしまった…」


いつも気高く堂々としている方だが、この時ばかりはか細い声な上に震えており、目を潤ませている。


「私も六条河原に駆けつけたのに助けられませんでした」


「俺も殿の腹心の部活でいられることが誇りだったのに、1番大事な時にお守り出来ませんでした」


そうして私達は黙って悲しみに暮れていた。


「…」


「…」


「…」


しばらくした後、静けさを破ったのは左近様だった。